言葉

ハチクロを読み返して見る。羽海野チカ先生の名作「ハチミツとクローバー」。

描かれているPCがまだダンボールみたいにデカイやつだったり、ケータイではなくて最早ピッチだったり、と、色々な部分で時代を感じる作品。だけど、読み返すたびに自分の青春時代(古)を思い出す大切な作品の1つ。歳を重ねる度に、登場人物の台詞に対する解釈が変化してくるのが面白い。

そして幾つになっても、あゆちゃんの恋愛に対する思考回路が似ている。前回の記事で書いた、高校生の時に付き合っていた彼氏と別れた直後にハチクロを読んだ際、あゆちゃんの真山に対する想いにモーーーレツに共感した覚えがある。真山にずーーっと片想いしていたあゆちゃんのモノローグで

「他人から見たらどんなに情けなくても みっともなくても 彼を想う この気持ち たったひとつが 冷たくて明るい 私の宝物だった」

「神さま わたしは 救われたくなかった ずっと真山を想って 泣いていたかった 10年でも20年でも ずっと好きでいつづけて どんなに好きか思い知らせたかった ーそんなコトに何もイミがないのも解ってた

でも止められなかった 恋がこんなにつらいなら 二度としたくないと 本気で思った」

っていうのがあるのだが、もうモーーーレツに共感し、泣いていた。そして絶賛不毛な片想い中な今も共感しまくっている。こんな事を思った上に書いている自分もクソ恥ずかしいが、あゆちゃんの恋愛に関する思考回路には共感せざるを得ない。

 

高校生の当時はそんなあゆちゃんの味方だったので、真山なんかクソ喰らえ!位思っていたが、改めて今読み返してみると、真山の努力と勇気には頭が上がらないと感じる。好きな女性の為に一生懸命に踠き、考え、カッコ悪いと思いながらも全力で向き合い、相手を前進させようと奮起する様は普通の人には出来ないと思うし、何なら1番カッコ良いと思う。遠回りでも報われる人って、やっぱり努力しているんだなあ、と思う。

私はと言うと、自分の事しか考えていないので、カッコ悪く見られるのは嫌だし、嫌われるのも嫌なので、真山みたいにがむしゃらになれない。どんなに好きでも、セーブをかけてしまう。「それで本当に好きって言えるのかな?」と思うときもある。真山みたいな真っ直ぐな気持ちと真っ直ぐに行動に移せる勇気が欲しい。

 

きっとあゆちゃんも、真山のそういう部分に惹かれたんだろうな、と思う。納得である。こんなに片想いで苦しんでいたあゆちゃんだったので、野宮さんが現れた時は、友人のようにホッとしてしまった。野宮さんも捻くれた大人だが、人の気持ちと人の痛みを理解し、自分本位ではなく、相手のことを優先して考える事ができる素敵な大人だ。…まあ正直登場の仕方がアレだったので、最初はあんまり好きではなかったが、読み返すたびに魅力が増していく男性だ。

話は逸れるが、私はハチクロのなかでは、藤原デザイン事務所のメンバーが大好きだ。美和子さんみたいなおやっさん…いや、女上司が欲しいし、山崎さんのピュアさと優しさが堪らなく沁みるし、なんといってもリーダー(犬)が可愛すぎる。リーダーの敬語で美和子さんに話しかけるところが大好きだ。生まれ変わったら、藤原デザイン事務所に勤めたい。

そんな藤原デザイン事務所の人たちと野宮さんが現れたことで、あゆちゃんが少しずつ前向きになっていく過程も、ハチクロの好きな部分。彼女の思考回路はマイナスな時もあるけれど、基本的には前向きに進んでいくタイプだからこそ、人に恵まれているんだなあ、と思う。と、いうか、ハチクロ含め、羽海野先生の作品の登場人物ってみんな愛おしいし、いやーな感じの人も最終的に憎めないんだよなあ。私は「脇役までも愛せる漫画は最高」説を唱えているのだが、ハチクロはまさにそれを代表する作品である。

 

多分、ハチクロを初めて読んだの高校生位の時。で、今はおおよそその10年後なのだが、こう読み返すと、自分の根本的な思考回路に変化がないということに気がつく。それは良い事なのかも知れないし、改善しなきゃいけない部分もある。でも、「野宮さんみたいな救世主が現れないかな〜」とか、そういう他力本願的なことばかり思ってみたりする。

 

フィクションの世界ではあるが、他人事とは思えない親近感をこの作品からひしひしと感じるのだ。 

 

 

●私は活字を書くのも読むのも好きだし、色々な人の言葉に触れるのが好きだ。文章の書き方や言葉のチョイスは、その人の性格を表しているから面白い。

社会人になってから、読んだ本の中で印象に残った文章・言葉をケータイのメモに残している。気が向いた時にしかやらないので、ポツポツとしか残っていない。が、気が向いた時に読み返してみると励まされたり、考えを改めさせられるので、地道に続いている。

 

その言葉たちは無意識にも、今の自分も励ますような内容のものが多かった。抜粋するとこんな感じ。

 

ラクで美しいものはないのだと思います。
子どもも、若者も、野生動物も、必死に生きているから美しい。(Lily/石田ゆり子)

・きっと死ぬまでずっと修行は続くのだろう。だから人は考えることを止めないし、だからこそ人生は楽しいのだ。
神様だって苦行ばかりを強いたりしないはずだもの。(黄色いマンション 黒い猫/小泉今日子)

・人間は現世において神さまから地球という住まいを借りているだけ。だから最後はすべてお返ししなければならない。

 

最後のものは、どこで見つけたか忘れてしまった。けれど、読むたびに背筋が伸びる言葉。

苦労して、傷ついて、人の痛みを知っている人ほど、こういう考えに至れたり、言葉にする事が出来るのだろうか。楽に生きれた方がそりゃあ楽しいだろうし、辛くないとは思う。だけど、私もこういう言葉を発さられるような歳の重ね方をするのが理想だ。今は、自分の事に必死で、すぐ考え込むし辛いし暗い考えになるし、とにかく先が見えない不安しかなくて、こんなこと書いている今も泣きそうに辛いが、こんな素敵な言葉を発信してくれる人生の先輩たちのおかげで、なんとか毎日を過ごせている気がする。私ももっと歳を重ねたら、そういう存在になれるのだろうか。ちゃんと答えを導き出せるのだろうか。

きっと明日に全てが解決できるようなことはないだろうけれど、下を向いてでも少しずつ前に進む努力はしていきたい。その活力として、色んな人の言葉をもっと浴びて生きていきたい。

 

 

●ここまでの一連の文章から私がどれだけ暗い思考回路かはお分かりいただいた方は思う。私の暗さは職場の1番仲の良い先輩をもドン引きさせた筋金入りだ。

そんな私だが、もうどうしようもなく困った状況のときに、おまじないのように心の中で唱える短歌があるので、最後にそれを載せてみる。大好きな歌人穂村弘さんの作品だ。

 

"サバンナの 象のうんこよ聞いてくれ だるいせつないこわいさみしい"

 

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)